
コミの解析的評価
概要
- 囲碁は,対局者の棋力に差がないと,先手が約70%程度勝つゲームなので,プロの棋戦では後手に与えるコミによりこの差を補正している.手番とコミ数が勝敗に与える影響について検討する.
- 実際の対局では対局者の棋力は同じではなく,勝敗には対局者の棋力差の影響が含まれるために,勝率をそのまま見るだけではコミ数が勝敗にどの程度影響を与えているのかを精確に測れない.
- レーティングを用いることにより,棋力差を除外したときのコミ数が勝敗に与える影響を評価できる.(ただし,レーティングの精度の問題もあるため,完全な解答を保証するものではない.)
- AIが本格的に導入された影響を受けたと考えられる2018年以降は先番の勝率が以前と比べて大きく下落している.そのため,ここでは
2017年以前までを評価の対象としている.それ以降については,評価するにはデータ不足であるため,今後の推移を待つことになる.
- 日本ルールでの検討結果であり,中国ルールでの結果とは一致しない.
数理モデル
- 少なくとも0から6.5までのコミ数が勝敗に与える影響は線形に増加減少すると仮定し,コミ数に比例した値を後番のレーティング点数に加算するものとする.
- 以下のように,コミ数に従った補正点数(2)をレーティングの勝率計算式(1)に加える.
先手の後手に対する期待勝率=1/{1+3^(後手のレーティング値 - 先手のレーティング値 - 補正点数)} ・・・(1)
補正点数=α*(適正コミ数 - 設定コミ数)/適正コミ数 ・・・(2)
- 上記の係数αと適正コミ数を,レーティングデータと対局結果データを用いて,勝率が最大化するように最尤法で決定する.適正コミ数とは手番による有利不利がなくなる拮抗点となるコミ数のことでプロ対局では6.5前後にあると考えられる.
- 以下に,この数理モデルを適用して,数値計算により算出した,コミ数と先番の期待勝率の関係の推定値を示す.
解析的評価値(2017年以前)
- 2017年まではコミ数6.5の先番勝率がおおよそ安定して50%を上回っており,以下の表のように,対局者間の棋力差がないときのコミ数と勝率との関係を推定していた.
- 囲碁AIの導入後は,コミ6.5で勝率がほぼ50%程度に落ち着いてきていると見ると,今のところ囲碁AIの影響は後手に有利に働き,コミ数にして0.1~0.3程度の影響があったと見ることができる.
表1:棋力差がない場合の先番勝率の推定値
コミ数 | 先番勝率 [%] |
0.0 | 70前後 |
4.5 | 57.2 |
5.5 | 53.9 |
6.5 | 50.6 |
6.6~6.7 (注) | 50.0 |
(注)これは実際の対局では設定できないコミ数であり,解析上の数理的な値である.
(2022/11)