ヒカルの碁のキャラクターの棋力

概要

週刊少年ジャンプに連載されていた囲碁漫画『ヒカルの碁』の登場人物の棋力(碁の強さ)について，現実の囲碁界に対応させた定量的な評価を試みる．
ランク(順位，序列)付けだけでなく，棋力を数値として表現する．確率論を利用したレーティング的手法によって現実の棋士のレベルを解析的に算出することが可能なので，その当時の日本や世界の囲碁界のレベルに対応させて棋力を当てはめてながら補完する．
作中の描写が少なく棋力を決定することが難しい棋士も多いが，できるだけ無理のないような形で当てはめていく．評価を定めにくい棋士については取りあえずの評価としている．
この章のみ，ヒカルの碁の世界の棋士の名前は通常のフォント，現実の棋士の名前を出すときはフォントを変えている．
『ヒカルの碁』(集英社)全23巻，及び，『ヒカルの碁碁ジャスキャラクターズガイド』(集英社，2002)を参照する．

結果

表1-aに棋力を数値化して推定した結果を示す．これは連載の最終話である第1回北斗杯終了時点での棋力を推定したものである．(佐為についてはその時点で消滅しているので消滅直前での棋力評価になる． )

表1-a：キャラクターの棋力(第1回北斗杯終了月時点)

棋力(点数)	キャラクター
98	藤原佐為
97	塔矢行洋，徐彰元
96
95	王星
94
93
92	緒方，(華松力)
91
90	座間，石橋
89	乃木，畑中，安太善，楊海，(陳学明)
88	一柳，倉田，高永夏
87	桑原，芹澤
86
85	塔矢アキラ
84	林日煥，陸力
83	王世振
82
81	森下
80	進藤ヒカル
79	萩原
78	洪秀英
77
76
75	趙石
74
73	社
72
71	伊角，白川
70	楽平，越智
69	門脇，芦原
68	李臨新，冴木
67	稲垣
66	和谷，村上，辻岡，川崎

棋力(点数)	キャラクター
65	木之内，都築，渡辺，柴田
64	真柴
63	本田，山田，周平，秋山
62	足立
61	小宮
60	上前津，津坂
59	桜野
58
57	御器曽，片桐
56
55	松永，椿
54
53	飯島，福井
52	奈瀬
51
50	大島
49	低段の女性棋士(名前不明)
48
47
46
45	尹
44	岡
43
42	庄司
41
40	神宮寺，フランク
30	曽我，岸本
25	「道玄坂」マスター，磯部秀樹
20	都議会議員秘書
15	河合
10	堂本
5
0

表1-bに，作中で成長や衰退がみられたり，棋力の評価ポイントがいくつもあるキャラクターについて，作中の時系列でそのポイントとなる時期ごとの棋力を推定した．また，10代の棋士は基本的に成長するとして，終了時の2002年5月時点での棋力を推定している．
ヒカルのアマチュア時代の成長は，こんな程度というおおよその見当．

表1-b：キャラクターの棋力(時系列推移)
キャラクター	MAX	1998年 12月	1999年 1月	2月	3月	4月	5月	6月	7月	8月	9月	10月	11月	12月	2000年 1月	2月	3月	4月	5月	6月	7月	8月	9月	10月	11月	12月	2001年 1月	2月	3月	4月	5月	6月	7月	8月	9月	10月	11月	12月	2002年 1月	2月	3月	4月	5月
佐為	98	93								96																					98	-	-	-	-	-	-	-	-	-	-	-	-
緒方	92																				90									91				92									92
一柳	90																							90												89			88				88
アキラ	85	68								70					73						78												82										85
ヒカル	80	-									-55	-30	-20	-10	0	6	12	30	45	50	55	59	63	66					69	71	73	73	73							78			80
洪秀英	78																					67																					78
趙石	75																														70												75
伊角	71	63																	64			64	64	64							65		69										71
越智	70														62				64			65	65	65																			70
楽平	69																														64												69
和谷	66								53						58									63																			66
真柴	64											63							63																								64
本田	63																		62			62	62	62												62							63
奈瀬	52																					50	50	50																			52
足立	62																					60	60	60												61							62
小宮	61																					58	58	58																			61
福井	53																					49	49	49																			53
片桐	57																					56	56	56										57	57	57							57

院生以上のレベルとは比較にならないために棋力を確定しにくいキャラクターを以下の表1-cに示す．その棋力は表1-aにあるキャラクターに比べて低い位置にある．

表1-c：キャラクターの棋力
名前	推定棋力	コメント
ダケさん	アマ高段	碁会所で三谷を賭け碁で負かした．佐為には短手数で潰されたが，不正を行わなくても三谷よりはっきり強い．アマチュア相手の下手ごなしとしては熟練の技能を持つが，院生のような棋力レベルではない．
加賀	アマ高段	せいぜい院生加入時のヒカルと同じ程度．
進藤平八	アマ中段〜高段	ヒカルの祖父．町内の大会で何度も優勝するくらいだからアマ中段以上か．アマ高段はありそうだが筒井を倒せるようになったくらいのヒカルを圧倒してはいない．
三谷	アマ中段	加賀と筒井の中間程度の棋力
古美術商の主人	アマ中段以上	番外編で登場．日本棋院のアマチュア五段の免状を持つ．免状だけでは棋力は確定できない．
阿古田	アマ三段程度	囲碁教室に通っている．
筒井	アマ初段程度	囲碁部員．明確に数字で計算できるヨセについては正確に打てる性質を持つ．
金子	1級程度	久しぶりに打って三谷に3子で全敗．4子なら勝負になるくらいか．
夏目	級位者レベル	三谷，小池と出た大会で副将．小池よりは強い．
藤崎あかり	級位者レベル	第1回から登場したヒカルの幼馴染．大会で簡単な(難しくはない)2眼生きの手筋を少し考えてわかる．
津田	級位者レベル	あかりの友達の囲碁部員．
矢部	級位者レベル	小池より強い囲碁部員．
小池	級位者レベル	中学1年時より囲碁部員として初心者から始めるがあまり上達していない．三谷，夏目と出た大会では三将．
岡村	入門者レベル	打って返しが使える囲碁部員．上島よりは強い．
上島	入門者レベル	ただ打てるだけ．

年表

表2-aはヒカルの碁世界の主な出来事．

表2-a：年表

年月	出来事
1998年12月	佐為，現代によみがえる．アキラ，父に三子の手合い．佐為vsアキラ(1局目)．
1999年1月	佐為vsアキラ(2局目)．
1999年2月
1999年3月
1999年4月	塔矢行洋，四冠．
1999年5月	倉田，若獅子戦優勝．
1999年6月	碁聖戦挑戦者決定戦で桑原が緒方を下して挑戦者に決定．
1999年7月
1999年8月	佐為vsアキラ(3局目)．塔矢父，碁聖防衛．
1999年9月	プロ試験本戦．ヒカル，佐為と対局を始める．
1999年10月	プロ試験本戦．アキラ，真柴，辻岡がプロ試験合格．ヒカル，岸本と対局．越智，院生になる．
1999年11月
1999年12月	ヒカル，院生試験合格．
2000年1月	アキラ，新初段シリーズ．芦原はアキラに3回に1回負ける．越智，院生1組3位．
2000年2月
2000年3月
2000年4月	ヒカル，院生1組に昇格．
2000年5月	ヒカル，院生1組16位で若獅子戦出場．
2000年6月	アキラ，若獅子戦優勝．アキラ，この頃二段に昇段．
2000年7月	プロ試験予選．アキラ，父に定先で打つ．
2000年8月	ヒカル，韓国の研究生洪秀英に勝つ．
2000年9月
2000年10月	ヒカル，越智，和谷がプロ試験合格．
2000年11月	塔矢行洋，王座獲得で五冠．
2000年12月
2001年1月	新初段シリーズで塔矢行洋vsヒカル(佐為)
2001年2月
2001年3月
2001年4月	緒方十段獲得．佐為対行洋のネット対局．
2001年5月	佐為消滅．倉田，本因坊挑戦．伊角，中国棋院で修行開始．
2001年6月
2001年7月	アキラ，本因坊リーグ入り決定．
2001年8月	緒方十段碁聖の二冠．
2001年9月	プロ試験本戦．名人戦は一柳vs畑中．
2001年10月	プロ試験本戦．伊角，門脇，本田がプロ試験合格．
2001年11月
2001年12月
2002年1月	棋聖戦決勝は一柳棋聖vs関西棋院の石橋．石橋が棋聖位を奪取．
2002年2月	北斗杯東京予選．
2002年3月
2002年4月	緒方，本因坊に挑戦決定．アキラは本因坊戦リーグ陥落．北斗杯合同予選．
2002年5月	第1回北斗杯本戦．若獅子戦(岡，庄司出場)．

表2-bはキャラクターの生年．一部は推定．年長者の年齢はほぼ不明．

表2-b：キャラクターの生年(推定も含む)
生年	日本	韓国	中国
1979	倉田，芦原
1980	冴木
1981
1982	伊角（4月），真柴
1983	本田，飯島		陸力
1984	岸本（3月），筒井（4月），奈瀬（5月），足立，小宮	林日煥
1985	加賀（1月），和谷（8月）	高永夏	王世振
1986	進藤ヒカル（9月），三谷（10月），塔矢アキラ（12月），社清春
1987	福井（6月），越智（11月）	洪秀英	趙石
1988			楽平
1989
1990
1991	岡，庄司

評価の方針、方法

ヒカルの碁では，登場人物の描写のリアリティが高く，また，週刊誌連載当時の現実の囲碁界の状況をよく反映させた作りになっている．よって現実のレベルを作中のキャラクターに重ね合わせて考えやすい．
サイト内で現実の棋士の棋力評価値(レーティング)を過去から現代まで継続的に算出している．これを用いて新入段者のレベルや，リーグ戦棋士，タイトル戦棋士，外国棋士のレベル，また年齢と棋力の関係などその階層ごとの大まかな評価が可能で，それを作中のキャラクターに重ね合わせて棋力を数値表現することができる．
また，作中のキャラクター同士の棋力差や上下関係を表す描写により，相対的な実力関係を推定することができる．
方針としては，作者の意図に反すると考えられるような無理な読み方はしない．描かれていない部分について独自にシナリオを構築するのではなく，できるだけ自然な形で補完するような形とする．
実際にプロが対局した棋譜が作中の盤面や対局の進行の描写に使用されているが，これは多くの場合，展開との合致から選ばれたもので棋士の棋力を表す意図は薄い．そのため，作中で碁の内容について描写されている以上には棋譜からの棋力の推定は特別な場合を除いて基本的に行わない．
1局の結果であっても，その時点での優劣を表現していると考えられる対局であればそれだけで優劣を決定する．
“○○は高齢だ→棋力はかなり減退していると考えられる”．このような評価は，実力が明示されていない場合などに補完的に取る方法となる．このような決定方法を採用するため，ここで行う方法は必ずしもロジカルなものではない．
本項では，作中で描かれるよりも九段になれなかった高齢高段者の棋力評価が低く見えるかもしれないが，これは現実に対応させて決定した．作中では加齢によって実力が衰えて勝つ能力は高くないがキャリアによる芸があるというような見方もできる．
番外編を含む全23巻の原作(漫画)に基づいた評価であり，アニメは踏まえない．生年月日などの基本データは『ヒカルの碁碁ジャスキャラクターズガイド』(2002)を参考にすることがある．

点数について

点数はこのサイト内で使用しているレーティング点数を，スケールを10倍して整数に丸めたものを基準として使用している．
対局者間の棋力差と勝率との関係は，現実ではロジスティック分布という実力下位者にもそれなりに勝機があるような確率分布に従うと仮定できるが，ヒカルの碁では，実力上位者がかなり高い確率で勝つ性質があり，表2-aのような勝率分布には一致しない．このあたりのギャップを踏まえながら点数評価を行う．
コミなしで打つと，実力が対等であれば先手番が7割程度の勝率になる．二子はそれを3倍，三子はそれを5倍にしたものだがこれには確かな論拠はないので目安程度となる．作中の新初段シリーズで何度か出てきている先番の逆コミ条件が互先から見て，定先の倍のハンデなのでおよそ15点差となる．
コミ1目分が1点ちょっと．
点数評価は棋士が発揮できる実力の平均値を表す．たとえ格上に勝つ力があっても，格下相手に取りこぼす傾向があるなら，評価はその分だけ下がる．格下相手に取りこぼさない能力も評価になる．

**表2-a:ロジスティック分布を仮定した場合の点数差と実力差の関係**
点数差	実力差
10(理論値)	75%上位者が勝つ
20(理論値)	90%上位者が勝つ
6.9〜7.7(推定値)	コミなし(定先)
13.8〜15.4(推定値)	先番逆コミもらい
20.7〜23.1(推定値)	二子
34.5〜38.5(推定値)	三子

表2-bは実際のプロ棋戦の対局結果からの解析的な評価となる．(ここで平均と書いてあるのはすべて中央値．)
新入段者のレベルは地域や年による差が大きい．65点もあればプロ試験に合格するのは難しくない．70点あれば，(現実では非常に難しいが)ヒカルの碁世界では全勝合格を狙ってできるようなレベルと想定できる(2001年の伊角，門脇のようにそのレベルが複数人いる場合は例外として)．

**表2-b:点数と実力の目安**
点数	レベル	点数	レベル
97	国内五冠棋士レベル	75	日本棋士の60位前後
96	国内四冠棋士レベル	70	日本棋士の100位前後
90	七大タイトル獲得棋士の平均レベル	65	二次予選出場棋士の平均レベル
86	リーグ戦所属棋士の平均レベル	65前後	東京本院院生一位レベル東京本院新入段者上位レベル
82	(大三冠除く)本戦出場棋士の平均レベル	56	一次予選出場棋士の平均レベル
80	三次予選出場者の平均レベル日本棋士の30位前後	40〜60	女流特別採用枠の合格者レベル

予備知識

基本的な設定、知識

現在の予選A，B，C，最終予選の区分とは違い，ヒカルの碁の当時は予選が一次予選，二次予選，三次予選に分かれおり，その上にトーナメント形式の本戦がある(名人戦と本因坊戦はリーグ戦形式)．ただし，天元戦は三次予選がない．また，碁聖戦は低段は出場不可で予選が1階層，棋聖戦はまた別の特殊な形式だった(後にリーグ戦に変更)．高段者(五段以上)は最低でも二次予選からスタートするため，基本スタートが一次予選となる低段者には不利なシステムで一次予選から一気に三次予選まで勝ち抜くのは難しい．よって，段位によるシードがほとんどなくなった現在よりも，10代棋士がリーグ入りや本戦入りすることが難しい．
基本的に低年齢であるほど棋力は成長しやすく，10代の内は特に棋力が成長しやすい．タイトルを取るような棋士はほとんどが早くから頭角を現している．
作中ではキャラクターの強弱を印象付けるためや都合上，わずかな差でも強い方が弱い方に高確率で勝つ．現実では対戦相手より少しくらい強くてもここまで確実に勝てるものではない．棋力を推定する際にヒカルの碁世界の，わずかな差であっても上位者が下位者に勝ちやすい特徴を考慮したうえで設定する必要がある．作中では，勝敗に与える偶然性の影響が現実よりも小さい傾向が見られ，はっきりした格の違いが描かれていても棋力にするとそれほどの差でもなかったりする．
毎年，９人が在籍し３人が陥落する(入れ替わる)名人戦リーグより，８人が在籍し４人が陥落する本因坊戦リーグの方が，少しだけレベルが高く，残留が難しい性質がある．
日本の上位として，アキラが入った本因坊戦リーグ在籍者からアキラを除いた，緒方，一柳，座間，倉田，乃木，畑中，芹澤に加えて本因坊の桑原，引退した塔矢行洋，その時点では名前がなく第二部より設定に加わった関西棋院の石橋の10人でトップ10を構成していたと読むことができる．(三星火災杯準優勝だったという梶は名前だけでその後登場していないので設定から消えたのか．)
作中の登場人物で，現実の日本囲碁界にいないレベルと言えるのは，佐為を除けばアキラとヒカルと倉田の3人．アキラほど若くリーグ戦レベルに到達した棋士はおらず，キャリアの浅さと棋力の関係ではヒカルや倉田ほど成長の速かった棋士はいない．塔矢行洋については，連載当時まででは同時に５冠王となった棋士はいなかったが，その後，５冠や６冠の達成者が現れた．
作中では一定してコミ5.5目が互先でのハンデの目数となっている．これは実際には先番にやや有利な目数だが，作中ではこれで公平だとされているので，公平なハンデの目数として読み取ることとする．先手後手の有利不利はないと考える．ただし，点数評価を行う上では現実に適合させて，定先の差を目数にして約6.8目(点数にすると7〜8点)とする．

段位と実力の関係

初段レベルの棋力で入段して九段レベルに向けて強くなっていくわけではない．越智やアキラが入段後連勝を続けたように，強い入段者ならデビュー時点で既にプロ集団の中位以上の実力がある．
段位が高いほど実力が上とは限らない．しかし，段位が高いほど強い可能性が高い(強い傾向がある)ということはできる．段位以外でその棋士の実力を判断できる材料がある場合は別にして，他に情報がない場合には，段位と年齢(キャリア)からおおざっぱな推定ができる．年齢が重要なのはその棋士にそれ以上昇段する実力がないのか，それとも通過点でしかないのかにより同じ段位でも実力は全く違うからである(例としては作中で名前が出るたびに昇段をしていた倉田など)．また，実力に関わらずスタートは初段からなので初段だから弱いとは言えないが，長年，キャリアを積んでも初段や二段にいる棋士は実力が低いというような推定ができる．
作中の描写でもあったように，力が落ちても段位は下がらないため，同じ段位でも実力には大きなばらつきがある．
作中ではベテランの高段者が若手に対して格上のように描かれているが，これは読者にお話をわかりやすくするための現実との相違点と考えられ，実際には高齢でかつ九段に昇段できていない棋士は，加齢による衰えもありそれほど強くない傾向がある．段位に応じてちょっとずつ強いわけではなく，まず，そこそこの年齢で九段になれているかがポイントとなる．棋力の評価としては作品内の描写とやや異なるかもしれないが，ここは現実的な評価を採る．
数の多い九段棋士の中で大きな格差があり，九段棋士すべてが高いレベルを維持しているわけではない．
初段から四段までが低段者，五段以上が高段者．この時代の段位は大手合で規定のポイントを獲得することによって昇段していた．昇段点を得るにはそれなりの実力が必要だが，棋力だけでなくキャリアが重要になるため段位と棋力の相関関係は決して高くない．

囲碁は年寄りが強いのか

作中の上位棋士には40代以上の高齢世代が多いが，囲碁のプレイヤーの棋力のピークはおおむね20代〜30代である．囲碁は加齢による棋力の衰えが緩やかなので，年を取ったほうが強いのではなく，若いころにすごく強い人が年を取ってもいまだに強いということである．高齢で初めて五冠になった塔矢行洋は別にしても，例えば座間や一柳などは若いころは更にもっと強かったと推測できる．囲碁界は時代や取り巻く環境の変化により，強力な棋士が多数固まって出る世代とほとんど出ない世代があり，作中での20〜30代世代は上位層が薄い世代だということになる．
ただし，70代以上に見える桑原本因坊のような例は無いにしても，高齢であっても短期集中でなら強い力を発揮するということはありえる．

北斗杯

日中韓3か国による18歳以下の団体戦．現実のレベルを想定すると韓国，中国は十代の棋士でも完成度が高く，日本の三大リーグ戦レベルの棋士が3人ずつやってくるような感じになる．日本のこの年代の棋士はまだまだ成長途上で完成度は低く，中国や韓国とはなかなか勝負にならない．
この当時のこの世代の棋士は中国よりも韓国の方がレベルが高く，これは作中にも反映されている．

棋力評価の論拠

日本の棋士

藤原佐為

ネット碁で対局を重ねるうちに強くなったと実感している(1999年7月)．現代に蘇り，現代の知識を習得することにより最終的には現役棋士最強クラスの行洋と同じかその少し上の棋力に到達したと考えられる．
江戸時代の佐為(本因坊秀策)が現代に来てどの程度強くなったのか．強くなったことを本人が実感している描写があるので成長したことは間違いない．また，秀策が現代の知識を習得すれば最強だという作中の評価もある．ではどの程度成長したのか，江戸時代との知識の差がものをいうのは序盤が主であり，コミ分すべて吐き出すほどの差が出ると考えるのも不自然に思えるので，(蘇ってから合計で)コミ分よりは幾らか小さな成長と想定する．
しかし，(1999年夏休み期間中の)アキラとのネット碁での対局を見ると，序盤だけでなく中盤以降でも以前とは違う強さになっているような描写があり，現代の知識の習得ではなくむしろ総合的な技量がレベルアップしているようにも見える．
主にアマチュア相手のネット碁対局で強くなったのは，対局を通じて現代風の打ち方に触れる中で得られるものがあったのか．
アキラとの3度目の対局の後も，ヒカルとともにレベルの高い対局を数多く観戦することにより更に強くなったのではないかと考えられる．
作中に，江戸時代時点の本因坊秀策(佐為)を史上最強と推す，または現代の最強棋士と比較しうるとする棋士がいるくらいなので，復活した時点で既に現代のトップレベルに近い棋力としても問題はない．実際に江戸時代の棋士が現代の棋士と比べて強いのかは議論がある所だが，これはリアリティよりも作中での描写を優先する．
塔矢行洋戦でヒカルに負ける手順を発見されたように，その強さは現実を超越したものではなく，対局を続けていればいずれは負ける可能性もあった．
五冠王の塔矢行洋より少しだけ強いということで，現実の特定の棋士に対応させるなら2013年に日本国内六冠王となった井山裕太のレベル(タイトル戦時代以降では日本棋士の最高評価)に近いと考えられる．ただし，現実とは違って対局内容はかなり美化される．

進藤ヒカル

対局条件や対戦相手により，発揮する棋力のぶれが大きいタイプである．
1998年12月に囲碁と出会う．翌1999年1月〜2月くらいにまともに囲碁を打ち始め，1999年の夏休み明け前後にアマ低段に到達．ここまでは少し速いくらいでさほど特別な成長スピードではなく，級位者のころの記憶がない倉田よりも進歩は遅いと考えられる．9月から成長スピードが急速になり12月の院生試験時でアマチュア高段者並みになる．
院生時代はその昇級に従って棋力を推定できる．ただし，院生下位のレベルがいまいちわからないのでこのあたりの評価はいい加減ではある．この時期は短期間で異常に成長しており，1ヵ月ごとに区切っても精確に評価を定めるのは困難になる．
プロ試験本戦開始前には，院生の中で足立，小宮に次ぐ程度のレベルに到達する．
プロ試験合格時点(2000年10月)で院生トップの越智をわずかに超えた程度の棋力と考えられる．その後，入段までは飛躍的に成長した様子はないように見える．
入段後の2001年4月の行洋vs佐為戦の観戦で更に高いレベルに到達したような様子がプロ初対局でも見える(碁盤が狭く感じる)．佐為消失後の周平戦(5月)での覚醒したような描写は更なるレベルアップか．その後，7月までは碁を休止したため棋力は停滞している．
研究会の先生の森下九段によると底の見えない才能．北斗杯前の対局では森下に及ばなかったが，少年漫画の主人公らしくイベントごとに強くなる性質があるので北斗杯の激闘を終えて森下より強くなっているかもしれないが，そこまでの評価は抑える．
北斗杯の中国戦と，韓国戦の対高永夏で，特に高永夏戦では過去最高の実力を発揮しているので，ここでまたレベルアップしたのかもしれないがその後が不明なので評価は抑え目にする．しかし，日本チーム団長の倉田も成長を予想し，期待してヒカルを大将に据えており，対局内容の描写も考慮するとここでまた成長したと取るのが自然か．中国戦でも序盤に悪くしながら接戦に持ち込んでおり，このレベルと十分やりあえるレベルにある．大会後の洪秀英との非公式の対局でも勝利しており，既に一流棋士並みの棋力を身に着けていると言える．最終的な点数は北斗杯の善戦を踏まえてやや甘めにつけている．
周囲と比べてそれほど特異なトレーニングを積んでいるわけでもない(佐為と思考まで同期するわけではない)のにも関わらず異常な成長の早さを現実的に考えるなら，プロ試験合格レベル程度は成長段階の初期の通過点に過ぎず，棋力の上限が通常のタイトル棋士を超越するような非常に高いところにあるということになる．
アキラとの実力差は急激なスピードで縮まっており，北斗杯時点では1年ちょっとの遅れにまで詰まっている．まだまだアキラの方が上ではあるが，充分に勝ち負けになる程度の差である．常に安定した実力を発揮できるアキラに対し，発揮できる実力の差が大きいヒカルという対比もできる．二人ともまだまだ棋力の上限が見えず，今後は競り合いながら世界のトップレベルまで成長することが想定できる．

塔矢アキラ

ヒカルと出会ったころ(小6冬)のアキラは，父である名人の行洋と三子で打っている．これはぴったり三子差ということではないが，二子よりは三子に近い差があると考えられる．もしちょうど三子差なら院生上位レベルでしかない．同年齢時の越智は院生の序列を1位に向けてどんどん上げている最中．後に院生1位になった越智に対して「自分の代わりにはならない．」などと言っている．プロ試験を余裕で合格するアキラ．プロ試験を別格の強さで合格するなら名人と二子で打てそう．プロ試験直前の夏休みには3度目の対局をした佐為から前回(小6時)の対局と同じような実力だと評価されている．同年齢時の越智よりはっきり強くないと格上扱いされている辻褄が合わない．このあたりを最も無理のないように読み取る(あるいは補完する)と，ヒカルと出会った時点で院生トップかおそらくそれ以上の実力はあり，プロ試験に向けては緩やかに強くなり，プロ試験時点で院生トップの伊角などを格下扱いできる程度の(それほど大きくはない)実力差．というような感じになるか．名人に三子にはそれほどこだわらなくてもよいかもしれない．その後，この手合いが定先まで改まっていることがアキラの成長を表している．
囲碁部員の筒井から，プロと頻繁に対局するアキラには「院生すらぬるい」ということが暗に示されている．
佐為の発言から，最初にヒカルを追いかけていた時期中には棋力の大きな成長はないと考えられる(プロレベルの人間が数か月で急に強くなれるわけでもないが)．急スピードで成長を始めるのはプロ入りを決めた後．ヒカルもそうだが連載初期のこの頃はキャラクターの急成長はまだ始まっていない．
初期の実力は院生レベルを超えている程度と考える．それ以上にあまり強いとすると，名人との手合いや，その後の成長と合致しなくなる．
プロ試験(1999年)は別格の実力で合格したような描写になっている．この時点で，作中でのプロ試験全勝合格に必要な目安となる70点程度はあったと考える．
プロ試験期間中の佐為との3回目の対局では，佐為が，アキラよりもむしろ自分の方が成長して強くなったと感じている．アキラもヒカルと対戦したとき以上の実力の差を感じている．2度の対局からこの間，アキラはヒカルを必死に追っていた割にはそれほど成長していない．
2000年1月の座間王座との新初段シリーズで逆コミで打って負けている．当時を回想して，その差は十分にあったとされており，この時の座間の棋力をタイトル保持者平均の91点としているが，そこから逆コミ分の約15点を引くと76点，この時点のアキラを75点以下とするのは正しそう．
2000年7月に父に定先の手合いを許される．定先の強さに迫ったのならちょっと強すぎるので二子ではもたなくなっただけでもう少し差はあると考える．
本因坊戦リーグ入りしただけでなく少なくとも2勝している(最終的には2勝5敗か3勝4敗で陥落)．本因坊戦リーグは半分が陥落する残留が厳しいシステムだが，北斗杯前にはリーグ戦下位レベルに設定できる．ただし，この時のリーグ戦の他のメンバーが一流どころばかりだったことは考慮できる．
このキャラクターの特徴として，(お話の都合でもあるが)取りこぼしが異常に少なく，常に高レベルな実力を安定して発揮できる．その特質も棋力の高評価に反映される．
佐為と初対局した登場時(小学6年生)の院生レベルを超越していると予想できる棋力の高さもだが，中学3年生でリーグ入りするようなプロ入り後の成長の早さも含めると，現実の日本囲碁界には未だいないレベルの存在である．
高永夏との比較では，高永夏が1歳年上で，高永夏は世界戦でも活躍し始め，国内でタイトル戦決勝戦で争っていることなどからリーグ戦陥落レベルのアキラより上だと考えられる．1年のハンデを考えれば同等の素質を持っていると思われる．また，国内タイトル戦ではこの当時は韓国の方が日本よりも若い棋士が勝ち上がりやすい体制であった．

塔矢行洋

アキラの父親，初登場時は国内三冠．日本の現役最強棋士だが，「神の一手に最も近い男」という異名だけでは世界最強者とは限らず，現役世界最強棋士であるというはっきりした描写はない．ただし，日本国内だけでなく世界戦でも強く，世界でもトップを争うレベル．
現実にはこの当時の日本碁界にはいなかったレベルの棋士で日本の囲碁の名人の理想的なイメージを具現化したようなキャラクターである．現実の日本囲碁界で国内四冠や五冠王となった棋士(加藤，張栩，井山)などを参考に棋力を設定した．

緒方精次

二冠獲得後，更に本因坊挑戦を決めており，塔矢行洋引退後は他の一流棋士より抜きんでている．行洋引退後の日本の現役棋士では最高の評価になる．
2000年7月に本因坊戦7番勝負で桑原に負けた後に，精神的に成長してその後，充実期に入ったような経過か．この人も作中で成長した一人だと言える．
塔矢行洋から奪った十段が初の七大タイトル獲得．
2001年8月，碁聖を取って二冠となり貫禄がついてくる．
第1話で若手のNo.1候補の九段として名前が上がる．若手ということから20代と考えて，九段になっていることを含めると，このとき28〜29歳くらいと推定できる．

伊角慎一郎

院生を退会する2年前から院生1位だった．しかし，若獅子戦の結果や，プロ試験前には院生順位を越智に抜かれてしまうことなどを見ると，精神的な弱さを無視しても特別に強い院生というわけではなかった．作中に登場する以前の2年間はあまり成長しなかったと思われる．
中国修行以前は，頻繁に不調時期があることも考慮にいれた評価となる．
最後のプロ試験失敗から中国修行開始時点までの行動は，院生を退会したり九星会を辞めたりしていて謎だが，楽平や趙石との最初の対局を見る限り，あまり上達していないのか．
中国修行以前は，自分の最高の実力を発揮できないことも多く棋力が不安定な状態で，修行後は常に自分の最高に近い実力を発揮できる状態になったと考えることができる．また，中国修行後は，常に安定した実力を発揮できるようになったことに加え，本田以下の院生集団を格下扱いにしている．不合格となった2000年のプロ試験では精神安定時でも本田に負けているが，合格時には院生上位レベル以上の門脇も含めて一つの取りこぼしもないことからも精神面の成長に加えて，1年間で基本レベルもはっきり向上している．(これくらいの成長はまだ現実でもあり得るレベル．)
帰国後のヒカルとの対局で強くなったことをヒカルに評価されており，本人も精神面以外でも中国で鍛えられたことを自覚している．
新初段シリーズで桑原に逆コミで勝ったことは，真剣度の薄い非公式戦での1局の結果でしかなく，これで逆コミなら本気の桑原にも勝てるとは言えず，そのままハンデ差としては評価しない．ただし，本因坊戦の防衛戦以外の桑原をせいぜい85〜86点と見積もっており，逆コミ差だと70〜71点となり，この時の伊角と桑原(平常時)との差は逆コミ程度とは想定できる．
また，桑原に認められる(名前を覚えられる)というのは現在の棋力なのか碁の内容なのか将来性なのか何を評価しているのかもはっきりせず，参考程度とする．新初段としてはかなり優秀な棋力だが，高齢な伊角の年齢を踏まえた評価なのかもわからない．
元々は越智と同じようなレベルだったが，低年齢の越智も十分な成長を見込めるため，連載終了時点で越智を上回っている論拠は特にない．
キャラクターの人気のためか作品後半ではポジティブな描写が多くかなり美化されているが，せいぜいプロ試験全勝レベル以上の急激な上積みは想定できない．それ以上の実績もないので越智と同じようなレベルを想定することになる(越智も合格した1年後には作中でのプロ試験全勝レベルに到達可能)．少なくともヒカルの成長について行けるレベルではない．
新初段シリーズでは，座間王座に負けた塔矢アキラと対比すると，同じ逆コミハンデで桑原本因坊に快勝している．その時点でのアキラより強くも見えるが座間は本気だったのに対して桑原から真剣さは感じられない(新初段シリーズは普通は上位者は本気ではないような描写もある)．院生時代に精神的な不安定を抜きにしても越智と同等だった棋力を起点とするとやはり急激なレベルアップを設定しにくい．

越智康介

年齢はヒカルの1年下．作中ではヒカルやアキラ，社などとの比較で，優等生だがセンスや天才性に劣る棋士のような扱いになっているが，中学1年時に院生1位からプロ試験1位合格と実力は非常に優秀．現実でも中学1年時に入段が内定する例は少なく，将来のタイトル候補と見ることができる．将来性では伊角よりも高く評価できる．
評価ポイントとしてはプロ入り前は同年齢時のアキラより強くしないことと，北斗杯時点では社よりも下であること．また，プロ入り後は年齢の低さと，好成績であるという描写から順調に成長していると想定できる．
プロ試験期間中のレッスンで地を気にしすぎるというアキラからの評価がある．これは技術的な問題を指摘したものでもあるが，棋風として考えるならつまらない碁でもチャンピオンになれる．社のような華やかな碁を打たないからと言って，実力で追いつけないわけではない．
アキラやヒカルのようなファンタジーなキャラクターには敵わないというだけで，順調に成長して20代以降に大きなタイトルを争えるレベルに到達すると想定できる．しかし世界でトップを争うまで成長するのは容易ではない．
北斗杯予選の和谷戦では勝利したものの，八段のプロに和谷とともに甘さを指摘されている．

和谷義高

2000年中学3年生時に，4度目の挑戦でプロ試験に合格．
1999年のプロ試験は予選から参加していることから院生順位が8位以内ではなかった．1年後には3敗での高レベルな合格者レベルにまで到達しておりプロ試験合格までの1年間で急成長している．
越智に対しては相性は良いようだが棋力は少し劣る．伸び悩んでいる真柴や本田に対しては低年齢という優位もあるので，最終的には追い抜いていると考えられる．
北斗杯の予選時の振り分けから，プロ入り後は越智や(休場期間のある)ヒカルよりは落ちるがそこそこの成績を残していることがわかる．
1999年の院生順位が低かったときは，国際アマの上位クラス(島野や李，金などの日中韓代表クラスか)にはお前では歯が立たないという森下からの評価．
プロ試験本戦前にはまだ合格レベルではなかったが，夏休みの本戦前にヒカルとともに合格圏内レベルにまで成長したか．

社清春

プロ入り後の成長も見込める北斗杯の時点での越智よりはっきりと上と評価できるのでポイントが高い．似たような棋力と想定できる伊角と比べると，越智より上なのかわからない伊角よりも，越智以上が確定できる社の方を上に評価しやすい．
入段過程は不明だが関西棋院で入段が内定して間もないにしては強すぎる．日本棋院東京本院の院生1位になるよりも関西棋院の入段は易しい．1年で急激に強くなったということか．
ヒカルよりも約3年近く早く碁を初めている．これはデビューの遅さを除けばまだ現実的な設定と言える．
北斗杯では善戦はしたものの三将相手に0勝2敗で終わる．中国の副将と韓国の大将相手に接戦に持ち込み，洪秀英に勝てるヒカルと比べるとはっきり格落ちと言える．
周囲の評価は非常に高いが，まだデビュー前後で実績が乏しく，越智よりはっきり強いという以上の評価は抑える．もう少し強いのかもしれない．
囲碁の才能やセンスを高く評価されているが，この後どこまで成長できるのかは不明瞭である．

倉田厚

キャリアも浅く，まだまだ成長途上であると考えられる．
2001年に本因坊戦挑戦者になっている．桑原本因坊に敗退．
おそらく1994年の中学3年時に囲碁を始めている．2年でプロになったことと段位の昇段スピードから考えて1996年には入段している(97年ではその後の昇段が間に合わな過ぎる，96年だとしても2002年で七段は早すぎるが)．
囲碁を始めて2年でプロというのはヒカルと同じようなスピード(ヒカルは2年弱で入段内定．2年強で正式に入段．)．入段までの年数だけでなくプロ入り後の成長スピードも含めるとヒカルと同様に現実離れした成長速度．将来性では早期に囲碁を始めたヒカルの方に分がある．
2000年の最多対局者で最多勝利者．

桑原仁

登場した当初は，緒方を負かして碁聖挑戦など不甲斐ない若手に対する強いベテラン棋士の位置づけもあったが，後には若手に押されて本因坊をなんとか防衛し続けるだけのような存在として描かれる．
かなりの高齢でもあり本因坊戦の防衛戦では強くても，長期間で見たときに発揮する実力の平均値が高くないので，他のタイトル保持者に比べて点数評価が下がる．高齢で防衛戦以外に活躍が少ないというのは一柳も似たようなところがあるが，桑原は特に防衛専門であるような描写が明確にある．
ただし，主に本因坊戦の七番勝負における，短期集中で発揮できる棋力の最大値は非常に高い．
実在した棋士では棋聖位6連覇の藤沢秀行と重ねることができる．
本因坊の連続防衛記録を更新中らしいので10連覇くらいはしているのか．

座間

王座保持だけでなく，本因坊戦リーグに在籍，残留しているなど高レベル．行洋に負けてタイトルを一時無くした点については，相手が特別な強さであるのでマイナス材料にはならない．
いわゆる小四冠に格付けされるタイトルの王座だから，実力が大三冠(棋聖，名人，本因坊)タイトルを保持する棋士より格落ちとはあまり考えなくて良いとする．七大棋戦はトップレベルの棋力がなければ優勝できない．一度は無くした王座を(空位ではあるが)すぐに取り戻すなどタイトル棋士標準レベルを最後まで維持していると高く評価できる．
塔矢アキラに対し，新初段シリーズでは逆コミハンデで勝利．本因坊戦リーグでも勝利するなどタイトル棋士レベルの実力があるところを見せておりポイントが高い．

一柳

登場時は棋聖だったが，アキラに負ける理由づけのためだけでなく，終始不調であることが強調され最終的には棋聖のタイトルも無くす．
2000年の天元戦挑戦者になっている(塔矢行洋に敗退)．
空位の名人を畑中と争い負ける(2001年)．ただしこれは，挑戦者になっているという意味でポジティブな材料となる．
比較的長期間の不調ということだが，これは年齢による衰えとも取れる．作中で唯一はっきりと初登場時からの棋力の衰退が見られるキャラクターでもある．

石橋

塔矢アキラ在籍時の本因坊リーグの８人には入っていないことについては，この時点では設定になかったキャラクターだったので考慮しない．第二部での関西棋院登場により用意された関西棋院のトップ棋士の設定だと考えられる．
2002年の棋聖戦に挑戦して棋聖になったことでタイトル棋士レベルの評価となる．
棋聖になったという以外に情報が乏しいので棋力評価の信頼度は座間や緒方などに比べて低い．

畑中

本因坊戦リーグにも在籍している日本の上位グループの一人．2001年の名人戦で一柳に勝ち名人となる．空位となったタイトルへの挑戦なのでその分少し評価を慎重にする．

乃木

10年前に名人戦を3連覇したが，その後，大した実績がないという意味に取ると年齢も考慮して(上位棋士としては)現在のポジティブな材料ではない．
打ち盛りを越えた棋士にも見えたが，碁聖戦の挑戦者になり(緒方に2勝3敗で敗退)，その後，(空位となった)天元を獲得しているので現在でも普通のタイトル棋士レベルに近いのか．何度もタイトル戦の決勝に進んでいるのはポイントが高い．

芹澤

本因坊戦リーグ在籍者．日本の上位棋士(ベスト10以内くらい)の一人という位置づけと見られる．タイトル獲得実績は描かれていない．
本因坊戦リーグの途中経過で3勝2敗．その後にアキラにも勝っており，低いレベルのリーグ戦在籍棋士ではない．

森下茂男

過去，七大棋戦の挑戦者に2度なったことと，三大リーグ入り経験がある九段．七大タイトル獲得はなし．2002年のヒカルとの対局前に最近好調だという描写がある．
最盛期を過ぎた50歳前後の棋士として，現実の同じような経歴の棋士との対応からこの程度の棋力と推定できる．現実でも2度挑戦している棋士は1度のみ挑戦経験の棋士よりはっきり強い傾向がありその分強く見積もることができる．リーグ入りについては，挑戦経験のあるような棋士はほとんどがリーグ入りも経験している．
現実では，森下と同じタイトル挑戦2回獲得0回の棋士と，挑戦1回獲得1回(防衛0)の棋士がほぼ同等の棋力を示している．この例が合計3例あり，この3人の棋力推移から40代後半には80〜81点の棋力評価となる．最近好調らしいので81点とする．全盛期には85〜86点だったと推定できる．50歳を過ぎているとするともっと下落していると推定できるがそれほど弱ってなさそうなので40代相当の棋力として評価する．
ヒカルを相手に実力の差を見せて勝っている描写から少し甘めに評価している．
まとめると，(小さなタイトル戦は無視して)過去に七大タイトルに2期挑戦(獲得0期)したことがあり50歳前後でそれほど衰えが激しくなくまだ余力が残っている方の棋士だという評価となる．

萩原

本因坊戦三次予選決勝でアキラに負けた九段．7年ぶりのリーグ戦復帰がならなかった．まあ強い方の九段棋士．
しばらくリーグ戦に入っていないとは言っても三次予選決勝まで来るからにはそれなりのレベルを想定できる．

芦原弘幸

アキラの新初段シリーズ前くらいに，芦原はアキラに「3回に1回負けている(3回に2回は勝っている)．」という発言があり，芦原はプロ入段後のアキラより強いような描写がある．この時点のアキラより強いとすると芦原四段は見かけや作中での扱いよりもずいぶん強いプロということになる．
一次予選と二次予選を行ったり来たりしていることについては，四段の芦原は一次予選からが基本スタートとなるため三次予選に進出するのは容易ではなく，これは大きなマイナス材料ではない．いつまでも四段から昇段できていないことのほうがマイナス要因となる．
下手に3回に2回の割合で勝つには，勝率の分布がロジスティック分布に従うと仮定すると6ポイント差は必要．しかし，ヒカルの碁の世界ではもっと小さな実力差でも確実に上手が勝つような勝率分布になっているので3回に2回勝てるときの差を小さく見積もることができる．また，そうしないと芦原四段が強くなりすぎてしまう．
芦原発言を無視できると，棋力の設定に非常に都合が良い．たわいのない一言だとして無視するという判断もある．
倉田と同期であるという情報より17歳を迎える1996年に入段したと推定できる．囲碁を始めて2年の倉田は別として，これは早くはない入段年齢である．17歳入段なら20歳で四段はプロ入り3年で，これは普通のペース．2001年4月時点でまだ四段でありその後の昇段ペースが遅い．アキラに3回に1回発言以外のすべてが芦原が平均的かそれ以下の実力の棋士であることを示しているため，アキラより強いという情報は緩やかに無視する判断を取る．
小学生時代のアキラよりは強いと考えたい．

冴木光二

森下門下の四段．芦原の1歳下．情報が少ないが芦原と同格のように見える．

白川道夫

囲碁教室で初心者のヒカルと出会った森下門下の七段．見た目から年齢がわかりにくいが20代後半か．30歳近くで七段だとすると，最も昇段が早い層ではないが中堅よりは上のレベルだと想定できる．
三次予選に進出しているのでそこそこ強い高段者と見て良いか．データが乏しいのでざっくりとした評価にしかならない．

都築

森下門下の七段．40前後に見える年齢と段位から推定．

渡辺

北斗杯日本代表の選手選抜戦を取り仕切り，本番での大盤解説までこなしていた八段棋士．越智と和谷の対局の甘さを指摘したり，ヒカルと社の対局を見て「八段の私が勝てるかどうか」などと発言しているが，少なくとも50歳以上には見える年齢と，八段までしか昇段できていないことから，過去の全盛期にもそれほどの実力はなかったと想定でき，この時点での実力が和谷や越智より上かも怪しい．

門脇龍彦

伊角に負けただけの1敗合格でレベルが高いように描かれている．経歴から考えても新入段者としては既に高いレベルにある．
伊角がいなければ全勝も狙えるレベルの高いプロ試験合格者であり，伊角よりは少し下と設定できる．
経歴と年齢から考えて今後の伸びは少ない．
2000年のプロ試験前(受験せず)に，「会社勤めも3年で飽きた」というようなセリフがある．大卒で丸3年働いてこの時4年目か，2000年で26歳前後と想定できる．

真柴充

アキラと同期入段の院生出身棋士．レベルが高くない入段者のモデル．プロ試験(1999年)合格後，若獅子戦まで1年近く経ってもあまり強くなってないようで伸びも少ない．
プロ入り1年後も初段のまま，プロ入り3年目の2002年5月に二段で，プロ入り後は好成績ではなさそう．

村上信一

若獅子戦で初登場時は，プロ入り2，3年目の18歳前後か．ヒカルの成長の物差しのような存在．
「院生とさほど差がない」ということだが，普通はプロ入りしてすぐに急激に棋力が伸びるわけではないので，平均的な若いプロのレベルと取れる．

辻岡忠男

アキラ，真柴と同期入段の二段．村上と同じようなものか．
同期の真柴よりも昇段ペースが速い．

本田敏則

院生のトップ3に入る実力で，レベルは高い．
作中でのプロ試験合格レベルが異常に高いだけで，強い方が必ず勝つわけではない中，27戦して21勝6敗で合格というのは本来なら決してレベルが低い合格ではないが，作中の基準ではレベルの低い合格となる．昨年度と同じ勝敗数ということからプロ試験合格までの１年間で大して成長しなかったことを伺わせる．

桜野千恵子

段位の低さからプロ入りの遅さが感じられる．それほど強い女流ではないだろうが，この年齢の棋士の実力はばらつきが大きく棋力を決定するには情報が不足している．
伊角によく負かされている．

上前津七段，松永六段

あまり意味はないキャラクターだが，アキラに敗れ去っていく高段者たち．棋力は年齢(不明なので見た目)と段位からざっくり推定．高段者と言っても九段に昇段していない高齢棋士でそれほど高い棋力を維持している者はいないのでアキラでなくても新入段者の方が大抵強い．
七段だから六段より強いとは限らない．ただ，強い可能性が高いという推定の仕方となる．
御器曽七段も含めて，あまり強くない高段者の面々．作者はもう少し強い設定のつもりだったのかも知れないが，現実に即した評価とした．

御器曽

大手合システム時代の高齢七段ということで評価は低い．現在なら予選Cに定着するレベル．

木之内

日中女流戦で快勝したという女性棋士で名前のみの登場．この当時の強い女流タイトル棋士レベルとする．

低段の女性棋士

「なんでこんな強い子が低段にいるのよ」「勝てるわけないわ」，で2回出てくる低段の女性棋士．名前は不明．たいして若くもなくプロになったものの棋戦ではほとんど勝ち上がれない女流棋士の典型レベルか．
こういうレベルのプロもいるという確認のために評価に加えた．

柴田，稲垣，秋山，津坂

北斗杯予選で負けた若手棋士．柴田二段は中部総本部の18歳でヒカルに負け．稲垣三段は東京本院の18歳で社に読み負け．秋山初段は関西総本部の17歳で和谷に負け．津坂三段は関西棋院の18歳で越智に負け．それぞれ年齢と段位に加えて地位格差を考慮して棋力を推定．
北斗杯予選前の手合成績(1年分くらいか)が，稲垣は越智と手合いをしばらく休んでいたヒカルよりも悪く，和谷と同じくらいの成績であった．

川崎

休業明けのヒカルを「最強の初段だ」と評価した．北斗杯の予選には出てきていないようなので19歳以上の若い棋士か．段位は三段．

山田

北斗杯東京予選で越智に負ける．成績もそれほどよくはない．越智から「山田さん相手なら楽勝だ」と言われてその通りに負かされる程度の実力．

院生

ヒカルの碁世界で明確に描写されているのは東京本院の院生のみ．関西棋院の社もおそらくは関西棋院院生からの入段だと思われるが明示されていない．実際の本院院生のプロ入り直後の成績からおおざっぱな評価ができる．プロ入りしたキャラクターについてはここには含めていない．
院生１組の主要メンバーの棋力については，まず，越智(２敗合格)などを東京本院の優秀な院生トップレベルとして起点とし，院生順位やプロ試験本戦の勝敗数により推定している．ばらつきはあるが本院院生トップなら入段後すぐに日本の上位150位以内には入れるようなレベル．その後の伸びは年齢やその後の描写により推定している．
プロ入り後は一次予選からスタートするが，塔矢アキラのレベルでなくても東京本院の優秀な新入段者であれば一次予選はぬるいレベルと言える．

奈瀬明日美

女性では院生の最上位．
2000年のプロ試験は院生8位までに入れず，予選から参加して本戦で13勝14敗．一般枠では合格が厳しいが女流枠試験があれば合格も狙えるレベル．

福井

院生1組．プロ試験では奈瀬と同じ勝敗数．年齢が低いので成長しやすいと考えられる．
2000年のプロ試験は院生8位までに入れず，予選から参加して本戦で13勝14敗．プロ試験では伊角戦を引きずっているヒカルと，ヒカル戦を引きずって落ち込んでいる伊角に勝っており，組み合わせの運に恵まれているため1勝分くらいは評価を落としても良いか．

足立俊輝，小宮英二

院生1組上位．2人とも本田に次ぐ程度の実力．以下のように，小宮よりも足立の方が少しだけ上の設定になっている．
2000年のプロ試験本戦で足立が20勝7敗，小宮が19勝8敗．足立は2002年5月の若獅子戦におそらく院生1位で出場している．

飯島良

プロ試験不合格後にプロを諦めた院生1組．院生をやめた後は棋力の伸びがないとする．
プロ試験の予選から参加しているので院生の8位以内ではなかったことになるが，本戦では15勝12敗で院生では(磯部と並ぶ)上から8番目の成績を残している．院生1組の8〜9位程度の実力．

岡，庄司

北斗杯後の番外編に登場した小学５年生の院生．院生順位より棋力を推定．

プロ試験の外来受験者

片桐恭平，椿俊郎，大島博司

プロ試験の外来参加者．本戦で勝ち越せる力がある．プロ試験本戦の勝敗より推定．
2000年のプロ試験本戦で片桐が18勝9敗，椿が17勝10敗．勝敗数から片桐がおよそ院生6位，椿が7位レベル．プロ試験予選時点では院生最終順位が7位だったヒカルと椿は同等の実力だったと推定できる．
ヒカルに勝利した大島は，同成績の福井，奈瀬と同じレベルとする．
椿は2000年が最後の挑戦だが，片桐は翌年も挑戦している．少しは成長しているか．

アマチュア

アマチュアは棋力の評価が難しく精度は低い．

岸本薫

元院生の海王中学囲碁部員．初登場時には院生を辞めているのでこちらに含める．1組経験もあるようでおそらく院生2組の上位レベルか．プロレベルには程遠い．
一度は1組に上がったことがあるというのは和谷などと対局したという設定を作るためと考えると，2組で上の方だったかも疑問になる．

周平

アマ日本代表．アマ日本代表の平均的なレベルとする．もっと強いアマ日本一もいるが，あまり強そうに見えないので．

李臨新

世界アマチュア選手権に出場した中国代表．塔矢行洋(toya koyo)とネット碁で対局した．
この当時の若くない中国のアマ代表で，日本代表とそれほど変わらない実力と思われる．

磯部秀樹

番外編に登場した小学生名人．院生に同姓がいるが別人．
磯部はその後，院生になっていないが，現実の小学生名人の院生加入後の最初の定着順位より院生2組の中位〜上位程度と推定．すぐに上のクラスに上がって行く者もいるが，磯部はアキラとの対局を見てもすぐにでもプロになれそうなレベルからは程遠いようなので，さほどレベルの高くない小学生名人と考える．
院生経験のある海王の岸本と似たようなレベルを想定できる．それぞれのアキラとの対局の描写から，磯部の方がアマチュアっぽい碁を打ち，院生経験のある岸本の方が洗練された碁を打つ感じか．

中学囲碁部員

ヒカルの院生時代以前の登場人物や，囲碁部員も評価に加える．プロや院生レベルとの比較は難しいので非常に大雑把な評価となる．
筒井がアマ初段レベル．高段者相手にでもヨセを完璧に打てるという設定だけでももっと強そうだが．
三谷は筒井に3子差で強いので四段．加賀は六段．阿古田をアマ三段．平八(祖父)を超えた瞬間がわからないので不明だがアマ中段か．海王副将(久野)を五段とする．論拠は院生以前のヒカルとの対比による．
金子はアマ4段レベルの三谷に3子でまったく勝てないが，そこそこ強いことから級の上のほうか．

尹先生

海王中学囲碁部顧問．
韓国でも子供に碁を指導していた．韓国でプロになっていない(なれていない)．院生レベルも抱える海王中学囲碁部で指導している．プロレベルの塔矢アキラの実力を試す対局で内容が碁になっている．強い韓国人が集まる碁会所にもいる．
碁を指導している先生だけに碁をよくわかっている描写が多い．しかしどの程度強いのかは不鮮明．

碁会所「道玄坂」

ヒカルたちがプロ試験前に行った碁会所「道玄坂」のマスターと常連客．
曽我はマスターより各上扱いで，和谷に2子で負け，3子で勝つ．和谷と2子と少しの差．
プロに二子で勝ったことのあるマスターは伊角に3子で負ける．伊角と3子と少しの差．
ヒカルに3子で負けた河合は碁会所内ではそこそこ強い人の扱いをされていて，ヒカルと3子と少しの差．河合より少し下の堂本．
これらはわずかな対局結果からの粗い推定でしかない．

神宮寺

碁会所「石心」の強いアマチュア．碁会所で院生時代の伊角に力の違いを見せられて負ける．
知人のプロから年齢制限がなければプロ試験を受ける力はあるとよく言われている．これはお世辞だとしても，プロには足りないもののそれなりの棋力があると考えられる．
碁会所内では一目置かれている．県代表クラスはあるのだろうと思われる．
もう少し強いと想定することもできるが，碁会所「道玄坂」のメンバーとのバランスも考慮して少し抑える．

都議会議員秘書

プロとの指導碁で3子で良いと言われていたが，4面打ちのアキラとの3子局で故意に持碁にされる．
指導碁での置石の数は，もしプロに本気を出されたら1〜2個は増えると考えたほうが良いか．標準プロから4子程度と考えることにする．

フランク

2年連続で世界アマ代表になったオランダ人．
98年大会では6位に入っているがアジアの選手を倒せていないようで，強力なアジアの代表以外の選手相手に好成績を残しての上位なのでそれほど強いとは評価できない．
saiとしてネット碁で対局していた佐為とネット対局をして大敗する．このあと和谷(zelda)とも対局をした佐為は，和谷が今までの対戦相手の誰よりも強いと評価しているので，プロ試験合格1年前の和谷よりも実力は確実に下．
このあたりのレベルは標準プロレベルから大きく劣り，棋力評価のポイントも乏しいので推定の精度はかなり低い．

韓国棋士

この当時は中国よりもレベルが高く上位棋士同士を比較すれば世界最強であった．

高永夏(コヨンハ)

北斗杯韓国代表の大将．
アキラと対等という評価があるが，リーグ戦下位レベルと設定したアキラと同等だと物足りない．
塔矢父を射程距離に入れていたらしい．
当時の韓国の同年代の新鋭強豪をモデルにすると，既に日本のタイトル棋士レベルと同等の実力と考えらえる．
16歳で既にトップレベルで，世界戦にも出場したり国内でタイトルを争っているというところから実在の韓国棋士としては，部屋をモデルにしたという朴永訓や，崔哲瀚，李世ドルあたりを想定できる．

洪秀英(ホンスヨン)

日本の碁会所でプロ試験前のヒカルと対局したこともある，北斗杯韓国代表の三将．
ヒカルとの初対局では，精神的にクサっていたという来日前の状態とは違って闘争心を出しているので，本来の実力を出していたと考えることにする．この時の秀英は，伊角が「(自分は)秀英ほどにも打てるかどうか」という評価．越智もこの秀英に勝ったヒカルに(対局内容も含めてだが)勝てる自信がないようで，伊角，越智より少し強いと考える．
ヒカルとの初対局で負けた後に，自分はヒカルと互角だと感じているが，ヒカルの得意技である「悪手を好手に化けさせる」はうまくはまれば上位者との棋力の差をかなり埋める効果があるようなので，ヒカルが普段以上の実力を発揮したことも含めて実際には秀英が格上だったと考えられる．この「悪手を好手に・・・」は越智戦では失敗して形勢を余計に悪くしているようなので，相手にうまく対応されると形勢を悪くするハメ手，ウソ手の一種とも言える．
帰国後は，日本のプロ試験よりはるかに難関であるこの当時の韓国の研究生を抜けてプロ入りしていることより，この時点から更に大きく成長したと考えられる．北斗杯時点で社，趙石よりは上でヒカルよりは下という評価になる．
層の厚いはずの韓国の18歳以下のベスト3に入るなら相当な実力を想定できるが，韓国代表に選ばれるのだから強いという見方と，お話として既出キャラを出してきただけという二通りの見方ができる．そのあたりをどの程度考慮するかで評価は変わる．副将とあまりにも大きな実力差があるとしたら不自然になる．
生年がいまいちはっきりしないが初登場時のプロ試験本戦前の夏休みに12歳．このときヒカルは自分より2歳下と言っているが9月生まれ設定(後付けか)のヒカルは誕生日前で中学2年生の13歳．北斗杯前の2002年4月に14歳．4月生まれでなければ学年的にはヒカルの1つ下か．

林日煥(イムイルファン)

北斗杯韓国代表の副将．アキラに負けたためにそれ以上には強く評価できないが，レベルが高いはずなのでできるだけ高く設定する．
高永夏に近い実力があるような評価が作中でされている．永夏と日煥が近い実力で，最後に代表入りが決まった秀英が少し離れた位置のように読み取れる．そうするともう少し永夏の評価を下げるか日煥の評価を上げる必要があるかもしれない．

安太善(アンテソン)

倉田と同世代の韓国棋士．倉田と同じか少し強いくらいか．現実では中韓のこの世代は少し穴で，それほど高レベルの棋士はいない．
日本でいう倉田のような位置のようなので，新鋭強豪という感じで韓国のトップレベルからは少し落ちると考えられる．
高永夏とどちらが上かもわからないが同じようなレベルを想定できる．

徐彰元

塔矢行洋と年齢も近そうで同格のような扱いをされている．
棋力も含めて曺薫鉉九段のイメージに近い．確定ではないが，韓国のナンバーワンの評価とする．

中国棋士

この当時は急成長を遂げる途上であり，若年層は強かったが，上位の棋士を比較すれば日本とそれほど差はなかった．

陸力(ルーリィ)

北斗杯中国代表の大将．
北斗杯本戦で1勝もできず，最近の調子が悪いことを考慮して北斗杯登場時点での評価は下がるが，年齢も北斗杯メンバーの中で高く，本来なら中国の大将はもう少し強い設定となる．

王世振(ワンシチェン）

北斗杯中国代表の副将．ヒカルに勝利する．韓国の副将より少し落ちる程度と考えられる．

趙石(チャオシィ）

北斗杯中国代表の三将．洪秀英と同じく，北斗杯以前の既出キャラ．
初登場時点では中国修行中の伊角よりは強いが，伊角や同行した若手日本棋士に負けてもいるのでそれほど大きな差ではない．低年齢なのでその後の北斗杯までの成長も考慮できる．
北斗杯のときに14歳．
日本から伊角と一緒に来た若い棋士が，「なんとか勝ったが冷や汗ものだった」「あの年であれだけ打てるなんて」という評価をしている．年齢を考慮して小さな子供にしては相当強いという感じに受け取れる．1年後に中国の18歳以下の3人に入るほどではないようにも感じるので棋力を定めにくいが，18歳以下中国代表の三将に選ばれたという事実を重視するならば高いレベルの棋力を設定する必要がある．しかし，伊角より強いにしても勝ち負けになるレベルとすると，現実的に考えれば中国の18歳以下のベスト3を選ぶなら入れないレベルと思われるので，過大な設定は控える．北斗杯時点で社よりは上で洪秀英よりは下の評価になる．

楽平(レェピン)

中国棋院で修行中の伊角に初対局で勝つが，これは精神不安定時の伊角であり，2局目は冷静になった伊角が勝利する．その後，勝ったり負けたりする．実力にむらがありそのため伊角の方が上ではないかという中国棋士からの評価がある．この時点では伊角と似たような実力だが安定時の伊角よりはやや下というくらいか．
伊角の影響で勉強熱心になり，中国棋院の恵まれた環境下で低年齢なこともありその後，飛躍的に成長している可能性がある．

楊海(ヤンハイ）

倉田と同世代の中国棋士．実力は中国の一流レベル．
中国の一流棋士ではあるが，中国囲碁リーグでの勝率が悪くないがそれほどでもないようなので，中国トップの王星などに比べて評価は落ちる．良くても中国の3番手以下を争うレベルか．

王星(ワンシン)

中国のNo.1棋士．この当時の中国にはまだ日本の五冠棋士レベルはいないため塔矢行洋と徐彰元より少し評価を落とす．

華松力

伊角も知っている中国のトップ棋士．
中国のNo.2と仮定した場合の評価となる．名前のみの登場なので評価に加える意味はあまりないが．

陳学明

塔矢行洋と2度対戦して負けた中国のトップクラスの棋士．1度目は1999年の塔矢4冠時，2度目は塔矢引退後の中国囲碁リーグ戦．八段であるが中国の段位は日本よりも抑え目で棋力とはあまり関係ないと考える．

おまけ

更に細かい話は以下に示す．

プロ試験での成績

ヒカルの碁世界で明示されている入段形式である東京本院のプロ試験は本戦を28人で争い上位3人が合格する．本戦シードとなる院生8位以内に入れる実力があれば勝ち越しは十分に可能な程度のレベル．
優秀な院生１位レベル程度の越智が25勝2敗で合格できる．負けた相手はその時点で自分より強い相手だけで，1つも取りこぼしていない．伊角と同じか少し弱い程度の門脇が同じく，伊角に負けただけで，格下に1つも取りこぼさずに合格している．伊角より下とすると院生上位などと比べてそれほど頭抜けた実力だったわけでもない．院生1位レベルから精神的不安がなくなり更に少しパワーアップしたくらいの伊角が全勝合格している．名人と3子〜2子の手合いの塔矢アキラも不戦敗のみの1敗で合格している．
現実で，28人規模のプロ試験を全勝しようとすると置き碁でもこなせるくらいのかなりの卓越した実力が必要になる．(現実の日本棋院棋士採用試験では平成14年は27人制で5敗，6敗，6敗の上位3人が合格，平成15年は28人制で4敗，5敗，6敗の上位3人が合格．)
以上より，ヒカルの碁の世界では格下に取りこぼすという確率が現実よりも非常に小さく，その集団の中で一番の実力があれば全勝合格がそれほど難しくないと推測できる．
院生トップを65点とすると，その付近だった越智やヒカルなどは全勝には届かなかった．越智は自分に近い実力の2人に負け，ヒカルは下手への取りこぼしがあった(ヒカルの取りこぼし癖はヒカル自身の特性でもあるが)．門脇は院生上位(本田など)を見下せるほどの実力者で，伊角も中国修行で院生レベルをいくらか超越した程度，プロ試験当時のアキラもそのくらいの実力であり，70点もあれば(現実ではその程度ではとても無理だが)ヒカルの碁世界では院生集団やそれと同程度の棋力の外来受験者達を相手に全勝は可能なレベルと想定できる．
逆に，この偶然性の軽視という事実から，1敗の差であってもプロ試験合格当時の伊角が門脇より上だという評価ができる．
プロ試験本戦のメンバーは，28人が2.5子くらいの間で分布しており，その平均レベルが院生の10位程度でこのレベルに逆コミで打てるくらいになると8割以上の勝率も見えてくる．このようなレベルの集団で全勝合格を目指すという越智の目標自体が本来なら無理な話．越智，ヒカル，和谷が合格した年の合格者の勝敗数(25勝2敗，24勝3敗，24勝3敗)は囲碁の勝敗への偶然性の影響をかなり軽視している．
現実では4敗で合格できればかなり優秀．5〜6敗でトップ合格も可能．5〜6敗するためには，偶然の良さも考慮しても受験生集団の平均レベルに逆コミの差(15点)は必要．集団のレベルが上下対象とすると上から下までおよそ30点差にひしめいていることになる．これは2子と3子の間で2.5子くらいの差になる．この中に院生が18人程度含まれており，院生集団の1組25位は更にレベルが少し落ちるため，院生1組1位と25位の差は3子程度と考えてよいか．

表：日本棋院棋士採用試験本戦(2000年)
順位	名前	種別	年齢	勝ち	負け	勝率
1	越智	院生	12	25	2	92.6%
2	進藤	院生	13	24	3	88.9%
2	和谷	院生	15	24	3	88.9%
4	伊角	院生	18	23	4	85.2%
5	本田	院生	17	21	6	77.8%
6	足立	院生	16	20	7	74.1%
7	小宮	院生	16	19	8	70.4%
8	片桐	外来	25	18	9	66.7%
9	椿	外来	29	17	10	63.0%
10	飯島	院生	17	15	12	55.6%
10	磯部	院生	16	15	12	55.6%
12	大島	外来	20	13	14	48.1%
12	福井	院生	12	13	14	48.1%
12	奈瀬	院生	16	13	14	48.1%
15	野崎	院生	16	12	15	44.4%
16	林	院生	14	11	16	40.7%
17	中村	院生	14	10	17	37.0%
17	杉下	外来	20	10	17	37.0%
19	高倉	院生	15	9	18	33.3%
19	三浦	外来	20	9	18	33.3%
21	金田	院生	17	8	19	29.6%
21	畑中	外来	27	8	19	29.6%
21	沢井	院生	16	8	19	29.6%
24	日野	外来	24	7	20	25.9%
24	立山	外来	22	7	20	25.9%
24	石川	外来	23	7	20	25.9%
24	佐々木	院生	16	7	20	25.9%
28	北原	外来	22	5	22	18.5%

院生のレベル

作中の日本棋院院生の順位と棋力の関係を推定する．
まず，院生1組1位を65点とする．これは現実の院生1位出身のプロ棋士のプロ入り後の棋力から推定している．また，院生1位にも差があるのでまあ優秀なほうの院生1位の点数とする．作中では院生時代の越智などがこれにあたる．
プロ試験本戦の平均棋力レベルにあたる院生1組10〜11位とプロ試験合格者の差が逆コミ前後であることが現実のプロ試験本戦から推定できる．院生1位と10位の差を逆コミ分の15点とする．
実際のイメージはトップ付近の何人かはもう少し拮抗している感じか．
トップから最下位まで65点差だとおよそ５子になる．ヒカルが院生加入から10ヵ月でプロ試験合格レベルまで５子くらい強くなる必要があったというのは妥当なところと言えるか．

表：日本棋院院生の棋力分布(推定値)
１組	点数	２組	点数
１位	65.0	１位	28.8
２位	63.3	２位	27.6
３位	61.7	３位	26.4
４位	60.0	４位	25.2
５位	58.3	５位	24.0
６位	56.7	６位	22.8
７位	55.0	７位	21.6
８位	53.3	８位	20.4
９位	51.7	９位	19.2
１０位	50.0	１０位	18.0
１１位	48.7	１１位	16.8
１２位	47.3	１２位	15.6
１３位	46.0	１３位	14.4
１４位	44.7	１４位	13.2
１５位	43.3	１５位	12.0
１６位	42.0	１６位	10.8
１７位	40.7	１７位	9.6
１８位	39.3	１８位	8.4
１９位	38.0	１９位	7.2
２０位	36.7	２０位	6.0
２１位	35.3	２１位	4.8
２２位	34.0	２２位	3.6
２３位	32.7	２３位	2.4
２４位	31.3	２４位	1.2
２５位	30.0	２５位	0.0

院生時代のヒカル

2000年1月から日本棋院の院生になる．
院生順位と点数との関係により点数を設定する．院生時代はひと月の中でも棋力の変動が激しいのでその月の平均値を取る．
院生加入当初は2組でまったく勝てないレベル．
2000年2月は伸び悩む．2月初めに2組18位だったのがまた最下位まで順位を落とす．
3月以降は5月始めの順位発表での1組16位まで順調に順位を伸ばす．線形に点数を加算する．
若獅子戦後も，順調に順位を伸ばす．プロ予選前(7月)に7位にまで上がっている．(ただし平均順位が8位に入れないので予選から参加．)
プロ試験時の越智の評価は，自分，伊角，本田，和谷，足立，小宮に次ぐ程度．この6人に次ぐ7位が最終順位か．
プロ試験中にも成長してプロ試験最終戦では院生１位レベルの越智を上回る．

院生以前のヒカル

1999年の夏休み明けからそれまでは比較的緩やかであった成長が急加速する(12月に院生試験に合格して翌年の1月より院生に参加した．)．12月の院生試験合格に持っていくために急成長が必要だったと思われる．
9月から時系列順に，「三谷に3子置いて勝つ→筒井に互先で勝つ→じいちゃんに負ける→筒井に2子置かせて勝つ→三谷に互先で負ける→阿古田に勝つ→三谷に互先で勝つ→海王の大将に負けて副将と同じくらいかと評価される→三面打ちで三谷，筒井に勝ち，加賀に負ける．」．このうち，海王の大将と対局したのは10月，三面打ちは12月，9月と10月の境界は不明瞭．勝った時点でそのレベルを超えた，負けた場合は劣ると評価する．
筒井がアマ初段くらいなので，三谷は筒井よりも3子強いくらいのアマ4段に推定できる．加賀はアマ高段(6段レベルか)．10月時点で海王の副将と同レベルなのは副将が弱すぎる気もする．阿古田が三谷より少し下でアマ三段くらいか．じいちゃんはアマ低段〜中段のころのヒカルに勝ったがそれほど大差の描写ではないので過去の実績を考慮してもアマ４段くらいか．
ざっくりと，9月にアマチュア初段〜三段，10月に4段，11月は描写がないが5段，12月に6段レベルになり，院生試験に合格したときには弱いアマ6段くらいか．

(2020/05/06)